人間になりたかったものたちの声
ある時は「メッセージ・イン・ア・ボトル」になって。
またある時は、「送り名のない手紙」となって。
いつ、どこで、誰が手にするか分からない瓶の中の手紙になって、偶然貴方に見つけてもらい、読んでもらいたい願望がある。そんな奇跡的なことが起こった日には、私は間違いなく恋に落ちるだろう。
私と知らせなくても、それを読んだ貴方が私を見つけてくれはしないだろうかと微かな期待を込めて手紙となり、見つけてもらった日には、涙を流してこの世界で貴方と出会えたことを大いに喜ぶだろう。
私は「ことば」となって、貴方の中に入り込みたい。貴方に扱われたい。そんな願望がある。
嘘をついた。私は「ことば」自身にはなりたくない。貴方と手を繋げる、寄り添える「人間」になりたい。猫でも小鳥でもない、人間である。
―――
もう忘れ去られてしまったのかもしれない。今後貴方が私に触れることはあるのだろうか。触れられず、部屋にひっそりと身を潜めている私は、そのつぶらな瞳で貴方を見ている。夢中で語るそのスマートフォンの向こう側には一体誰がいるのだろう。ねえ、私のことも見てほしい…。定点カメラのごとく、私は貴方を同じ場所から見つめ続ける。目に写る貴方の様々な表情に魅了され、私はそれだけで胸が高鳴り、体中が熱く紅くなる。この火照りきった体の行く末は……。ただ冷えるのを待つことしか許されないのかしら。行き場のない想いは冷えてゆくだけね。
せめて読まれる本の一冊になりたかった。貴方が真剣な眼差しで自分を見つめてくれる、涙したり、顔を綻ばせたりしてくれる。その顔を、一番近くで見られた。ただ、出会いは一時で、本棚にとどまることを許されないかもしれない。図書館に返されたり、売られたりするかもしれない。それでもこの小さな動けない体のままよりはずっとずっとマシだろう。
楽しそうに話をする貴方の声が聴けるだけでも喜ぶべきことなのかもしれない。初めて私を手にとったときの貴方の表情を思い出すと、もっともっとと欲望が湧いてくるけれど、醜い自分の容姿を思うと、現状で満足しなきゃいけない気がする。こんなに醜い姿の私に笑顔を向けてくれること自体が奇跡だったのかもしれない。
出会った季節がまたやって来て、私の存在を思い出してくれることがあったら、もう一度笑って撫でてほしい。私は全身を紅くして、貴方の側にいられる喜びを示すから。
※ひまつぶしに書いた文なのでいろいろと気にしないでください。